東京地方裁判所 昭和55年(ワ)7117号 判決
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【判旨】
すなわち、
1 原告大澤が実質上主宰していた訴外創芸出版(代表取締役は訴外中村光彦)は、昭和五三年六月一日、訴外スカイ・フィールド(代表取締役は訴外天野の妻である被告天野恭子)から、その所有する明和ビル三階(本件建物)を権利金三〇〇万円(これは未払である。)、期間二年の約で賃借し、同所で事業をしていたが失敗し、昭和五四年一月末日頃本件建物を明渡した。
2 原告大澤は、原告太田から本件建物内の什器備品として約一〇〇〇万円前後のものを買受けていたが、その代金は未払であつた。訴外天野は、訴外スカイ・フィールドの訴外創芸出版に対する債権として、未払の権利金及び滞納家賃があつたので、その回収の方策として、本件建物内にあつた前記什器備品の一部や原告大澤の電話の譲渡を受けるべく、昭和五四年一月頃、原告大澤と話合をなし、結局、右譲渡を受ける他に、訴外天野が原告大澤に対し一五〇万円の債権があるものとし(なぜ一五〇万円になるのかを合理的に示す証拠はない。)、これにつき原告太田を連帯保証人として公正証書にすることを合意し、昭和五四年一月三一日本件公正証書を作成した。原告太田は、前記什器備品の納入代金の回収を図りたいがために、やむを得ず、連帯保証人になることを承諾した。
(以上の事実のうち、訴外スカイ・フイールドが本件建物を所有していること、権利金三〇〇万円が未払であること、原告大澤の事業が失敗したこと及び本件公正証書を作成したことは、当事者間に争いがない。)
右事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、本件公正証書記載の一五〇万円の消費貸借が被告ら主張の如く準消費貸借の構成によるものとしても、それの元となる旧債務の具体的内容及び金額が本件証拠上判然としない。すなわち、被告らは、訴外創芸出版が訴外スカイ・フィールドに対し、少なくとも合計二九四万一九八三円の債務を負つていたと主張するが、その内容、金額ともに本件証拠上明確には認め難い(被告らは、貸金一〇〇万円があるとの主張をするが、それに添う乙第七号証は、訴外創芸出版の封筒の表に「五三年九月七日壱百万円也受領しました大澤昭典」と毛筆で記載されているだけで、それが、貸金、預り金、売買代金、あるいはそれ以外のものであるのかその趣旨が全く不明であるし、また、誰に対する債務であるかも明らかでないので、被告らの前記主張事実を認めるに足る適確な証拠とはなし得ないというべきである(前記主張に添う証人森永友健の証言も伝聞証拠にすぎず、採用し難い。)。
そして、前記認定の事実からも明らかなとおり、本件公正証書の作成は、訴外創芸出版の訴外スカイ・フィールドに対する旧債務(それ自体、証拠上不明確なものであることは、前述したとおりである。)の処理として、原告大澤の訴外天野に対する債務に切替える趣旨で行なわれたものである。
三公正証書に表示されている請求権と実体上の請求権との間に多少の不一致が存在しても、公正証書の債務名義としての効力は左右されないが、その不一致が著しい場合には、公正証書としての効力を有しないと解すべきところ、本件においては、前記認定のとおり、当初の債権債務関係は、法人である訴外スカイ・フィールドと訴外創芸出版との間のものであり、かつ、その債権の内容、金額が具体的に明確でないこと、それに対し、本件公正証書表示の債権は、個人である訴外天野と原告大澤との間の一五〇万円の消費貸借であるというのであり、被告ら主張の如く、準消費貸借の構成をとつてみても、その不一致は著しく、かつ、元の債務の内容、金額が不明確であるというのであるから、本件公正証書は、実体と合致しない無効のものであるといわざるを得ない。 (中田昭孝)